蒼の探し人
 
 
 
 最初に城下に辿り着いたのはやはりというべきか、最初に走り
出したケルトだった。
「やったぁ! いっちいー。」
 城下の入り口に辿り着いたケルトはそう嬉しそうに万歳をして
その場に止まった。すると後ろから急に伸びてきた腕が喜んでい
る彼を掴まえた。
「うひゃあわ!?」
「もう、先に行くなんてぇ、ずるいですよぉ。」
 全力で走りでもしたのか、かなり荒く乱れた息で後ろから思い
切り体重をかけて、不平の声をかけたのはやや掠れてはいたが、
間違いなくボリスのものだった。だが、いくら彼が軽いとはいえ、
ケルトよりも背の高い彼の体重は意外と重く感じた。
 そんな彼のわずかに後ろで、然程息を乱してもいない神巫が立
ち止まったのが、なんとなくわかった。
「さして遠くはなかったが、気がついて間の余りない人間にはきつ
いと思われるぞ。
 ……まぁ、終わった(のち)に言う事ではないと思うが。」
  まだ息苦しそうに息を吐いているボリスの気配を感じて、確
かに気がついて間の殆どない人間にこれはきついかもしれないと
思えた。
「ご、ごめん、きつかった? 神巫さんは大丈夫?」
「私はなんともない。気遣うならばボリス殿のみであろう。」
 きつかったのではなかったかと神巫にも尋ねたが、彼は顔色1
つ変えることなく、普通の態度を表情で、逆にボリスを気遣えと
いいながら彼を気遣っていた。それはとても解かり難いものでは
あったが。
 ボリスはその神巫の言葉に少し苦笑すると、ふらつきながらも
立ち上がった。
「僕も、気遣いはいりません。ただなんとなく疲れただけですか
ら……。」
 心配そうに自分を見上げてくるケルトにそう、にこりと笑って答
えると神巫の方を見た。
 神巫は然したる変化も本当になく、息1つ乱れた様子も、それど
ころか汗をかいた気配すらなかった。
(ここまで来ると体力の違いは一目瞭然ですねぇ。)
 そんな神巫の様子に内心でそう思うと、心の中で1つ溜息をつい
た。
「ケルト殿、少々喉も渇いてきたので、どこかで1度休まぬか?」
 ボリスの内心をよそに神巫は特に大した事ではないような感じで
ケルトにそう提案してきた。
 確かに朝食のときに珈琲と紅茶を飲んだだけで、それ以降何も口
にしていなかったので、それは当然のように思えたが。それ以上に
おそらくはボリスを気遣ってのことだろうということが、なんとな
く予想できた。
 ケルトはそれに頷いて答えると
「んー。じゃぁ城下探索もかねて近くのお店に入りましょうか。」
 そう少し考えて2人にそういうと城下へと入っていった。そのケ
ルトを追って神巫とボリスもついていったが、どこの店に入るのか。
という点でボリスは一抹の不安にも似たものを感じていたが、神巫
はそろそろ昼も近いから、途中で昼も一緒に取れるところにするか
と尋ねてくるだろうな。と完全に他人事のように考えていた。
 ケルトはそんな2人をよそにすたすたと道を迷いなく歩いていっ
た。だが昼に近いこの時間、人も多くそんなにすたすたいかれては
すぐに背の低いケルトは隠れてしまい、神巫は何度も姿の見えなく
なるケルトの気配を探しては、ボリスの腕を引いて歩いていった。
「すごいですね。見えないのに場所がわかるなんて。」
「いや、気配を探しているだけだ。」
 感心を通り越し尊敬さえ滲ませて言うボリスに少し眉を寄せて言
うと、また見えなくなったケルトの気配を探し見た。
(もう1つの姿が目立つおかげでよくわかる。)
 空の如く鮮やかで、海のように深い蒼の髪を持つ幻の姿を見つけ、
そちらに向かい歩きながらそう思った。
「ケルト殿、少しゆっくり歩いてくれ。私たちでは追いつけぬ。」
 見えた少年のケルトの姿にそう声をかけると、彼らのほうに向い
て何かに気付いたのか顔を赤くした。
 そのケルトの様子に神巫は少し首をかしげ周囲に気を回した。
(…………………………………………………………見……なう。)
 その際に聞こえた微かな声に一瞬眉を寄せて、ケルトの反応に対
し納得したのだった。
「ごめんなさい。そういえば2人ともこの街の事ほとんど知らないん
だよね。ゆっくり歩くね。」
 赤くした顔のままそういうと羞恥からか背を向けようとしたが、
何かに気付いたのかもう1度振り向くとボリスの腕をつかみ、引いて歩いていった。
「わっ!? え?! ケルト君、どうしたんです??」
 急に引かれたボリスは困惑気味に眉尻を下げて神巫を見てきた。
その表情は明らかに助けを求めていたが、そんな表情をされても助
けよう船の出しようがないので、何も言わずについていくことしか
できなかったのだった。

  
























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