記憶の幻
 
 
 
 その下の小川の流れる大通りを抜け、街を囲う外壁の重厚な門
を抜けると、そこにはまず城壁の周りに流れていたものよりも広
い堀が流れていて、その先には神巫が朝日の中で見たものと同じ
光景が広がっていた。
「ほぅ。遠めに見た折も思ったが、まさしく緑のもゆる初春の草原
だな。」
 眼前に広がる新緑の草原を見ながらそう感想をこぼした。
 一面に緑の若葉が広がり風が吹くごとにその鮮やかな緑の葉を
揺らせ、まるで波のようにさざめき涼やかな光景を醸し出してい
た。
「この草原、昼寝をすると気持ち良いんだ。」
 ケルトはそう神巫の言葉に不思議そうに、でもどこか嬉しそう
に笑って言うとふと、彼の方へと眼をやった。
 まさしく銀の糸をより集めたように光煌く艶やかな純銀の髪に、
炎の紅と海の蒼を称えた瞳が合わさり、神秘的な印象を見るもの
に与えた。どこかこの世のものざらぬ雰囲気もその印象を助長さ
せているのかもしれない。
 外で見ると尚の事、その姿は蒼と碧の間で際立っていて、荘厳
な感じだった。
 そうやって見つめていると、やはりというか、神巫は見られて
いることに気付いたらしくケルトの方へと視線を向けて
「如何なされた? 私の顔に何か?」
 そう尋ねた。
 するとケルトは慌てたように顔を真赤にして「なんでもない。」
というと神巫の斜め前で横を向いて歩いていってしまった。
 神巫はなんとなくだがケルトが自分を見ていた理由は解かって
いたので内心少し呆れながらケルトの後を何も言わずに付いて行っ
た。
 若葉の間にあるかないかというほど細い道を、周りの風景をゆっ
くりと眺めながら歩いていると赤と白の花が咲き乱れる場所が目
に入った。
「……ヒアリ……?」
 その花の間にもといた世界でよく朝に顔を合わさることの会っ
た青年に似た姿を見、小さくその名を呟いた。一瞬迷ったのはそ
の姿が彼の記憶の中にあるものとは微妙に異なるためだった。服
こそ違わないのに、その彼の頭を彩る髪は黒ではなく、鮮やかな
緋色だったのだ。
「え……? 何か言った?」
 小さく呟いた声も風が運んだのか少し前を歩くケルトにも聞こ
えたらしく、そう振り返って尋ねてきた。
  神巫はその花の咲く場所から眼を話すとケルトの方見て、い
や。と首を振って何もないと伝えた。
 あそこに見えたのはおそらく幻だろうと結論付け、もう1度見
てそこに先ほど見た姿がないのを確認してから、ケルトの後を元
と同じ速さでついて行ったのだった。

  
























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