店主の老人
 
 
 
 もう1度杖に視線を向けるとほのかな光をはなっているような
気がして、見つめていたがやはり先ほどのような強い光はでるこ
とはなかった。
 いくら見ていても光る強さも変わらずむしろ優しげなその光の
中で何となくだが、それを持っているのが普通のような気がして
きて複雑な気持ちになってしまった。
「気に入りなされたか?」
 しばらく食い入るように見つめるクロノスの後ろからしわがれ
た老人の声がして、驚いて後ろを見るとそこに不思議な衣装を着
た老人が立っていた。
「いえ、不思議な感じがして」
 老人の言葉にどう答えていいのかわからず素直に内心を答える
と、老人はそのクロノスの言葉にうんうんと頷いた。
「それが気に入ったということじゃて、杖のほうが貴公を気に入っ
たのかもしれんの」
 その様子を見ていた店主がそういってきたのでそちらを見る
と、どういう意味なのだろうかというように首をかしげて見せた
が、明確な答えが帰ってくることはなかった。
 その間も杖はしきりにほのかな光を放ち続け小さな音が聞こえ
るような気すらした。といっても明確に聞こえるわけではない
し、まるで鈴がなっているようなかすかな音ではっきりとはわか
らなかった。
 だがそのクロノスの内心を知ってか知らずか老人は何も言わず
にニコニコとクロノスを見るばかりで何もいってこようとはしな
かった。
「その杖はの『ヴァリアス』と申してなさる御高名な神官様が祈り
をささげて造ったといわれる聖杖なのじゃ。おそらく気に入られ
たのじゃろうからもって、行かれるとよい」
 ニコニコと笑いながらそういう老人の言葉に小さく教えられた
名前を反芻するように呟くと、何故か恥ずかしそうに軽く頬を染
めてうつむいた。
 チリンと言う音がした杖からしたような気がした。
「ヴァリアス……聖なる杖……ですか」
 老人の説明を反芻するように呟いていた。
 ケルトはその杖の名前に「へぇ」と覗き込むと老人に「ありがと
うございます」と名前を知ってかまだ恥ずかしがって下を見たま
まのクロノスに代わって老人に礼を言ったのだった。
 老人はそのケルトの言葉に「ええよ、ええよ」というとゆっく
りとした足取りで別の場所へと歩いていった。
 その方向は誰もいない刀のある場所だったが、2人は多分商品
を見回っているのだろうと結論付けたのだった。
「でさ、クロノスさんはそれを買うの?」
 杖を持ったままうつむいているクロノスに尋ねると少しばかり
間を空けてコクリと小さく頷いて答えた。
 「じゃぁ、早く買いにいこう。おじいさんあっちに言っちゃった
けど今行けばすぐにお金払えるよ」
 そういってクロノスの腕をぐいぐいと引っ張りながら歩いて
いった。その途中で槍を置いてある場所にいたボリスの声をかけ
ると
「じゃ、じゃぁ、僕は先に外で待ってますね。買うものもないです
し……」
 そういって1人ボリスはそんな2人を見送りながら店の外へと
出て行ってしまったのだった。
 とりあえずクロノスが杖を買うことはすでに決定事項となった
ようである。

  
























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