脱走の疑問
 
 
 
 説明に相槌を打っていたものの兎がそんなことできるのかとい
う疑問がふと思い浮かんではて? と首を傾げると
「そんなことあるのか? 兎だろ?」
 そうケルトの頭を軽く掌で叩きながらもう片方の手で持った黒
兎を視線の高さまでひょいと持ち上げた。
「ちょ、何すんですか!??
 その可能性はあるよ。今火有さんが持ってる黒色なら無理だけ
ど、青色持ちの魔力はそこそこ強いから扉開くぐらいは簡単にす
るよ。家の中で脱走された話し、よく聞くもん」
 頭を叩く火有の手を振り払いながらそう説明すると逃げるよう
に火有から数歩離れた。
 そのケルトの行動を横目で確認すると軽く苦笑しながら「そん
なもんか」と呟き兎を頭の上にひょいと乗せてみたのだった。
 頭の上に急に下ろされた兎はすぐに顔を上げて周囲を見渡して
いたが、すぐに居心地がよくなったのか火有の赤い髪を少し掻き
分けて特に居心地のよい場所をぽすぽすと叩いて見つけると、そ
こに腹ばいになって居ついてしまった。
 なんとなくで置いてみて居つかれてしまった火有は少し顎を上
げるよう感じで上を見たが、同様に見ているケルト達に肩をすく
めて見せた。
「そういや、俺らが捕まえた中にその青色持ちとかってやつ、い
たっけか?」
 頭の上にいる兎を落とさないように気をつけながら青年の顔を
見るために軽く頭を下げて尋ねると、隣でケルトとボリスははた
としたような表情で青年に視線を向けた。
 確かに考えてみれば彼らには蒼い石を持った兎を捕まえた記憶
はなかった。その上火有がそう尋ねたということは彼も捕まえた
記憶がないということになり、それはつまり、逃げた。というこ
とだった。
「あ、どこかに行ってしまったようですね。
 でも良いですよ。どの道青色持ちってあまり売れませんし」
 青年はあっさりとした笑みでそういうと、本当に気にしていな
いという感じで両手を顔の両側で振った。
 火有は詳しいことはさっぱり解らないのでなんとも言いようが
ないが、ケルトやボリスはそれで納得したようなのでそうなのだ
ろうと思うことにした。普通珍しいなら売れると思うのだが……。
「そっか、でも、すまねぇな」
 青年の説明に苦笑気味に謝ってみたがそれにも「本当にいいん
ですよ」と返してきたので頭の後ろを軽く掻きながら苦笑とも微
笑とも取れる微妙な笑みを浮かべた。その火有の表情にも青年は
曇りも後悔もそれこそ残念という表情すら感じさせない見事なま
での、まさしく会心のできというような笑みをニコニコと浮かべ
ていた。
「あ、そうです。刻兎たちを捕まえてくれたお礼に1羽づつ差し
上げますよ」
 いいことを思いついたといわんばかりの笑みでそういってくる
青年の笑みには断られるという考えは微塵も感じられなかった。
 こういう表情になぜか思い当たるような感じがして少しだけ複
雑な思いに駆られた火有だった。

  
























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