朝の騒ぎ
 
 
 
第二翼:手紙
 
 ロドルフォの−不名誉な−騒動から1日経ち、どうにか平和な
朝を迎えたカイトス達は深く、深く安堵の息を吐いたのだった。
 本当に面倒ごとも起きず、どうにか昨日のうちに館内の事務処
理全般が終わり、本心からほっとしたのは彼のみではないだろう。
最もカイトスはロドルフォのことにかかりっきりになっていて事
務系はいつもカラスの仕事ではあったが。
「どうにか、騒ぎもなく休めたな…。」
 ほっと安心した表情で起きたカイトスは未だ寝惚け眼でそう呟
くと、うーん。と伸びをしてから勢いよく起き上がった。
 すると、彼の起きる気配に反応するように穏やかな空気と昨日
は気付かなかった微かな翼の羽ばたく音が近づき、声が掛けられ
るのを待った。
「おはよう。カムロ。」
 近づいた気配が声を掛けるかどうか迷っている精霊にそう声を
掛けると、彼もすぐに声を返してきた。
『うん。おはよう、カイトスさん。』
 自分の声に答えてくれる声に少し笑うとベットから降りた。そ
ろそろ黒髪の弟が駆け込んでくる時間のはずだった。
 そう思ってきていたパジャマの上を脱ぎ捨て、昨日着ていたも
のとは違う肩を大きく開いた鮮やかな青色の服を身に纏った。
 そして、一応ズボンも穿き終えた頃合を見計らったように扉が
勢いよく開かれた。
「兄貴!? やっべーことになったぞ!!」
 だが入ってきた人物は、予想通り弟のカラスだったが、なにや
らいつもとは違う切迫した声にカイトスもすぐに気を引き締めた。
「カラス? どうしたんだ、やばい事になったって……。」
 カイトスはすぐにからすに声をかけたが、どうやら全速力で走っ
てきたらしいカラスはすぐに声を出せるような状況ではなく、大
きく肩で息を数回しながら声を出した。
「て……てが…………。に…………さん……。」
 それでもカラスの声は嗄れ、息をしながらと言うこともあい余っ
て、到底聞けるような状態ではなく、カイトスは近くの水差しか
らコップに水をいれ彼に渡して「落ち着け。」と声を掛けた。カラ
スもそれを受けると、一気に飲み干し1回大きく息をつくと、言
葉を早口に捲くし立てた。
「今日書く手紙を、リスファ兄さんにアルファルドまで持って行っ
てもらうって! に、兄さんが!!」
「なんだって〜〜〜っ!??!」
 カイトスもその言葉に大きく声を上げて驚いた。
 ロドルフォがいないのが1番困るが、だからと言ってリスファ
がいなくても十二分に困るのが現実だ。なぜならリスファはこの
サダルスウドの軍の実質的な−名声的にも−指揮官なのだ。いな
くては軍の統制が取れない。
「軍の指揮はどうすんだ!?」
 思わずカイトスはカラスに怒鳴るように尋ねた。リスファの穴
埋めをできるような人材は、いくらなんでもいない。
 もちろんカイトスとて指揮を取ったことがないわけではない。
何せ本来軍の指揮官は彼
であったのだから。それを自分はいずれ
長くここを離れることになるからと辞退し、代わりに指揮官を務
めることになったのが、戦闘技術と軍の指揮能力に秀でたリスフ
ァだった。最初はロドルフォだったが流石に彼の体ではという事
と、彼は指揮官に性格が向いていないと言うことでこうなったら
しいと後に長男であるファイから聞いた。
「兄貴に取らせるって。」
「無理だぁ!! 俺らもうすぐ行くことになるかも知れねぇんだ
ぞ!? 何時来るかわからない彼女がもしリスファ殿が戻るより
先に着てみろ、指揮系統が断裂する!!」
 カラスの言葉に本当に頭を抱えながらてんてこ舞になっている
カイトスだが、流石に今のままはやばいと判断して部屋の扉に手
をかけると勢いよく開き
「とにかく、ロドルフォ様に進言してくる! ………………聴いて
くれるかわかんないけど。」
 と一言ごとに遠くなっていく言葉を残し走って行ってしまった。
『…………神室、行かなくていーの?』
 後に取り残され呆然としているとカラスについている精霊のカ
ノンが少し困惑気味にやはり取り残されたカムロに尋ねたのだっ
た。
 カムロはそのカノンの言葉にはたとしたのか、微かに翼の羽ば
たく音を響かせながらカイトスの後を声もなく追って行ったのだっ
た。
 その後に残されたのは、黒髪の少年と、極一部の人間にしか声
を聴くことのできない存在の精霊の少女のみであった。

  
























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